平成21年(2009年)7月22日は全国各地で部分日食が見られるだけでなく,奄美大島北部,トカラ列島,屋久島,北硫黄島,硫黄島などで皆既日食を見ることができる(図1).前回日本の陸域で皆既日食が見られたのは昭和38年(1963年)7月21日で実に46年ぶりのこと,次回はさらに26年後の2035年まで待たねばならないため,この皆既日食には俄然注目が集まる.お住まいの街でいつどのように見えるかについてはホームページの日食各地予報で確認いただきたい.
加えて,この日食にはもう1つ大きな特徴がある.皆既の始めから終りまでの時間(皆既食継続時間)が最長6分44秒と,実は今世紀中で最も長いのである.これはどのような要素によって決まるのだろうか.
そもそも日食とは,地球と太陽の間に月が入ることで起こる.しかし,月の軌道面は太陽の軌道面(黄道面)に対しておよそ5.1度の傾きを持っているため,新月で月と太陽が同じ方向に来ても常に日食が起こるわけではない.つまり,月の軌道の黄道に対する昇交点または降交点付近で新月となることが条件となる(図2).
一方,地球から眺めると月と太陽はほぼ同じ大きさであるが,楕円運動により距離が変化するため,月が太陽より若干大きく見えたり小さく見えたりする.月の本影の中に入る中心食であっても太陽が完全に隠れる皆既日食と周囲が残る金環日食の2つが存在するのは,月・太陽の大きさと距離が微妙なバランスで織りなす自然の奇跡といえよう(図3).
日食の条件に距離の要素をあわせると,皆既日食が長く見える条件は月が大きく(近地点付近),太陽が小さいこと(遠日点付近)といえる.実際,この日食は月・太陽が降交点付近にあり,朔が7/22 11h 35m,遠日点が7/4 11h,近地点が7/22 5hと,その条件に合致している.
この考えをさらに進めると,太陽が昇交点付近に来る周期(交点年または食年,346.6201日),月が昇交点付近に来る周期(交点月,27.212221日),月と太陽の方向が同じになる周期(朔望月,29.530589日),月までの距離が変化する周期(近点月,27.554550日)によって日食は分類できることになる.それらは19食年 ≈ 242交点月 ≈ 223朔望月 ≈ 239近点月 ≈ 6585日という関係にあり,ある日食の6585日後(約18年と11日.より正確には6585.3日であり,地球上の経度は120度ほどずれる)には同じような特徴を持った日食が再び起こる.この周期のことをサロス周期と呼んでいる.
サロス周期をもとに日食を分類すると今回の日食は136番となり,皆既食継続時間ランキングにはこのグループに属する日食がずらりと並ぶ.最も長いのは昭和30年(1955年)6月20日の皆既日食で,最長で7分12秒もあった.しかし,いかにサロス周期といえども完全に各周期が一致するわけではないため,今後はこれをピークに短くなる一方と,いささかさびしい状況にある.
暦象年表2009より