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サロス周期と日月食の予測

日食は月が太陽を隠す現象であり,月食は地球の影が月に落ちる現象である.これらはいずれも,太陽・地球・月がほぼ一直線に並ぶときに起こる.しかし,月の公転面は地球の公転面(黄道面)に対して約5.1°傾いているため,三天体が常に整列するわけではない.そのため,食が起こるのは,新月または満月のときに,月が地球の公転面を横切る位置付近にある場合に限られる.

図1 図2

また,日食と月食では観測可能な範囲が異なる.月食は月が見えている広い地域で観測できるのに対し,日食は月の影が通過する限られた地域でしか観測できない.このため,現象としての発生頻度は日食の方が高いが,特定の地点で観測できる機会は月食の方が多い.

日月食の発生には周期性があり,その代表がサロス周期である.サロス周期とは,223朔望月(約6585日)ごとに,似た幾何配置のもとで食が繰り返される時間間隔である.ここでいう「似た幾何配置」とは,月が新月または満月であること(朔望月)に加えて,
・月が黄道面を横切る昇交点または降交点からの角距離が似ていること(交点月)
・地球から月までの距離が似ていること(近点月)
を指しており,223朔望月 242交点月 239近点月であることから,この周期で太陽・地球・月の相対配置がほぼ再現され,似たような特徴を持つ食が繰り返される.

以下に,朔望月,交点月,近点月の日数を列挙する.
・朔望月 29.530 589日,223朔望月=6 585.321日
・交点月 27.212 221日,242交点月=6 585.357日
・近点月 27.554 550日,239近点月=6 585.537日

このように,223朔望月は整数日ではなく,約8時間の端数を含む.このため,1サロス後の食は前回より約8時間遅れて起こり,その間に地球は自転しているため,観測可能な地域は前回観測された地域からおおよそ120°西へ移動する.また,サロス周期は厳密に成立する関係ではないため,幾何配置は完全には同一とならない.その結果,徐々に食の特徴も変化していく.

サロス周期は古代の観測の積み重ねから見いだされたと考えられている.古代バビロニアではサロス周期を理解していたことを示す記録が残されており,こうした知識が後の天文学に影響を与えたと考えられる.その発展形の一例が,古代ギリシャのアンティキティラの機械である.

アンティキティラの機械は,サロス周期に対応する223の目盛りをもつ文字盤を備え,各目盛りには食の種類や時刻を示す情報が記されていた.この装置では,まず各目盛りに記された日食・月食の発生時刻を読み取り,併設された副文字盤に示される,サロス周期周回数に応じた時刻のずれ(空欄と8と16.4周目にはずれは24時間=1日となり,元に戻る)を加えたうえで,
・日食:昼であれば観測可能性あり,夜であれば観測不可
・月食:夜であれば観測可能性あり,昼であれば観測不可
と判断できる.このように,アンティキティラの機械は日月食が実際に観測できるかどうかを予測する装置であったと考えられている.

図3
(左上)機械式天文・暦計算機(復元品) The model of Aristotle University of Thessaloniki.
(左下)文字盤破片のX線画像.(右)下の文字盤(螺旋)がサロス周期を表す.
Photos: Hellenic Ministry of Culture and Sports, National Archaeological Museum, Athens.

このようにサロス周期は,古代において観測に基づいて見いだされた日月食予測のための重要な周期であり,天文現象の規則性を示す代表例である.現代では精密な軌道計算によって高精度に予測できるが,サロス周期は自然の周期性理解と天文学史の両面で重要な意味を持っている.

暦象年表2027より