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貴重資料展示室

第60回常設展示:2022年10月29日〜2023年10月27日
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アテネ国立考古学博物館所蔵 アンティキティラの機械 解説動画

アテネ国立考古学博物館[外部サイト]の協力により、アンティキティラの機械の解説動画を公開する運びとなった。

今回は科学者系Virtual YouTuber(VTuber)の星見まどか[外部サイト]さんに解説をお願いした。

解説者:科学者系VTuber・星見まどか

 星見まどかさんは、惑星科学分野を中心として、天文学一般のアウトリーチ活動を行っているVTuberである。
  YouTubeにおける通常の配信では、天文の魅力を視聴者に届けることを目的として活動している。
  また、天文に関連する趣味のTRPGゲーム配信も積極的に行っており、天文学に関心のない人々が興味を持つきっかけ作りもしている。
  ・YouTube:星見まどかさんのチャンネル[外部サイト]

(mp4での再生はこちら)

アテネ国立考古学博物館所蔵 アンティキティラの機械 解説文章

国立天文台三鷹キャンパスの歴史館の一階に展示されたアンティキティラの機械解説ポスターの詳細である。

復元品:The model of Aristotle University of Thessaloniki

機械式天文・暦計算機(復元品)
機械式天文・暦計算機(復元品) The model of Aristotle University of Thessaloniki

アンティキティラの機械 (Antikythera mechanism) は、アテネ国立考古学博物館に所蔵される最古の機械式天文・暦計算機で、古代ギリシャの科学者によって設計及び製作がなされたと考えられている。

製作時期については諸説あるが、概ね紀元前 1 世紀頃に製作されたと考えられており、1900年に始まったアンティキティラ島(ギリシャ)付近で沈没船のサルベージ調査により回収され、1901年に存在が確認されてから、これまでにX線等を用いた詳細な研究が行われてきた。

アンティキティラの機械主要破片』『歯車の一例

アンティキティラの機械主要破片

歯車の一例
上図:アンティキティラの機械主要破片 左:目視 右:X線
下図:歯車の一例 左:目視 右:X線 (三角形の歯が規則正しく並んでいることが見て取れる)

サルベージでは、沈没船から青銅の像などが多数発掘され、しばらくの間は、博物館内でそれらの遺物の中に埋もれていたという。

しかし、当時の館長であったヴァレリオス・スタイス氏らが歯車状の形状に気づき、科学的な重要性が認識されるようになる。

上図の最大の歯車は直径が約13 cmあり、破損前には223個の歯を持っていたと考えられている。

これ以外にも多くの小さな歯車から構成されていたことが判明している(例:下図)。ハンドルを回転させることで、それらが組み合わさって運動する。これにより、暦の計算や、太陽や月、その他当時知られていた惑星の天球上での位置の計算を行えたと言われている。

復元品の前面の文字盤

復元品の前面の文字盤
復元品の前面の文字盤

機械には、計算結果を示す文字盤が前面と背面に合わせて3つあり、前面に1つ、背面に2つが並んでいる。加えて、補助的な副文字盤もついていた。

前面の文字盤には2つの同心円形の目盛りがあり、外側の円は365日の古代エジプト式カレンダー(この復元品では360日しかないが、Aristotle University of Thessalonikiの最新研究に基づくモデルでは365日となっている)になっており、ソティス周期に合わせて手動で動かし補正する必要がある。内側の目盛りは黄道十二宮を表示している(ソティス周期:1年365日の古代エジプト暦と太陽年とのズレが1年分になる周期)。

また、複数の針は太陽と月の位置を示していたと考えられている。

古代エジプト暦が太陽年から4年に1日の割合でずれていくことは知られていた。そのため、外側の円を4年に一度、1日分戻すことで、1太陽年からの誤差を補正することができる。

計算機構に閏年の概念を取り入れてはいないが、手動で正確な暦計算を可能にした工夫は、驚きに値するだろう。

復元品の背面』『文字盤破片のX線画像

復元品の背面

文字盤破片のX線画像
上図:復元品の背面(上部・下部共に螺旋状になっており、計算の結果を針が指し示すことで、暦の作成や、日食や月食の予測が可能であった)
下図:文字盤破片のX線画像(文字盤と思われる部位が明確に写っている)

背面の上部に見られる目盛りは螺旋状に刻まれており、太陰太陽暦を作る目的で用いられた。

太陰太陽暦は、月の満ち欠けを基本とする太陰暦(ひと月が朔望月 = 平均約29.5日)を改良したものである。太陰暦は3年で約1か月季節とのずれが生じるが、閏月を挿入することで太陰太陽暦とできる。

これをより正確にしようと試みたのがアテネの天文学者メトンである。彼が導入したメトン周期は、235(228+7)朔望月で19太陽年とする周期であり、19年で7つの閏月を挿入する。機械ではこれを表すため1周47目盛りで47×5周 = 235になっている。

下部の文字盤には223個の目盛りが螺旋状に並ぶ。各目盛りは1朔望月を表し、どの月に日食や月食が起こるかが記されている。

これはいわゆるサロス周期で、以後は同じパターンを繰り返す。ただし、サロス周期のもつ端数のため、周回ごとに時刻(8時間)や見られる場所はずれていく。

この装置の場合は、各目盛りに刻まれた時刻を読み取り、それに周回数に応じた副文字盤の時間数(0、8、16)を加えればよい。

日食なら昼、月食なら夜に起こるものが見られる可能性のある現象とわかる。

復元品の全体像(グラフィックによる再現)』『機械内部の歯車の組み合わせ案

復元品の全体像(グラフィックによる再現)

機械内部の歯車の組み合わせ案
上図:復元品の全体像(グラフィックによる再現)
下図:機械内部の歯車の組み合わせ案(大小様々な歯車が複雑に組み合わさり、それぞれの針を動かしていたのがわかる)

上の図は復元品の全体像(グラフィックによる再現)。前面背面に計3つの大きな文字盤があることがわかる。

また、内部ではこれらを連動させて動かすための歯車が組み合わさっていたと考えられている。

『総括』

アンティキティラの機械は、紀元前 1 世紀頃に製作されたとされるが、諸説ある。いずれにしても、当時のギリシャが天文学をはじめとする科学を大切にし、その発展に前向きであったことが、この機械からも明らかであろう。

これまでに様々な研究者が、古代の沈没船からサルベージされた機械の破片を研究し、それらを繋ぎ合わせることで、多様な復元モデルを作成してきた。

そのいずれもが、当時のギリシャに高度な科学技術が存在し、応用することができる人々がいたことを思い出させてくれる。

製作年代やその目的、また、まだ明らかになっていない機能など、私たちの知的好奇心をくすぐり続けるアンティキティラの機械。

この展示をきっかけとして、この機械が現代の我々に投げかける問いに、耳を傾けてみるのはいかがだろうか。

参考文献:
  The Antikythera shipwreck : the ship, the treasures, the mechanism : National Archaeological Museum, April 2012-April 2013 / editors, Nikolaos Kaltsas, Elena Vlachogianni, Polyxeni Bouyia. Kapon Editions 2012
  アンティキテラ古代ギリシアのコンピュータ / ジョー・マーチャント著 ; 木村博江訳. 文藝春秋 2009.5

Credit line: Antikythera Mechanism, inv. no. X 15087, National Archaeological Museum, Athens.
©Photos: © Hellenic Ministry of Culture and Sports, National Archaeological Museum, Athens.
協力:Mr. Απόλλων Αγκόλης(Πάντειον Πανεπιστήμιο Κοινωνικών και Πολιτικών Επιστημών)
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