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暦象年表に採用される経緯度について

暦象年表とは,国立天文台の設置目的の一つである「暦書」の編製として刊行する冊子のことであり,二十四節気・朔弦望・日月食などの天文現象や太陽・月・惑星の位置などが記されている.最初に刊行されたのは昭和21 年(1946) 版で,それ以前は本暦と呼ばれる暦がこれに相当する.表2のように若干の変遷はあるものの,本暦ならびに暦象年表では長らく旧東京天文台大子午儀中心を東京の経緯度の基準点としてきた.しかし,世界測地系への移行手順に問題があり,平成15 年(2003) 版から平成22 年(2010) 版まで掲載していた東京の経緯度の値は適切とはいえないことが判明した.本稿ではこの報告をするとともに,その他の経緯度についてもまとめてみたい.

表1:経緯度の基準点
基準点   日本測地系 世界測地系
大子午儀中心跡 経度 139° 44′ 40.90″ 139° 44′ 29.27″
緯度   35° 39′ 16″   35° 39′ 27.7″
子午環中心跡 経度 139° 44′ 40.5020″ 139° 44′ 28.8759″
(日本経緯度原点) 緯度   35° 39′ 17.5148″   35° 39′ 29.1572″

経緯度の基準点といえば日本経緯度原点(参考:国土地理院のページ)を思い浮かべる人もいるだろう.こちらは旧東京天文台子午環中心跡である.まずはこれらの基準点の経緯度が定められた経緯を振り返ってみよう.1

経度については大正7年(1918) 9月19日文部省告示號外により大子午儀の経度が定められた.子午環中心の経度もそれに合うように変更されている.

一方,緯度については,大子午儀が明治25年(1892)に東京天文台で測定した成果によるのに対し,子午環中心は明治9年(1876)の測定成果を基にしている.この結果,本来大子午儀は子午環の東10mほどの場所にあり両者の緯度はほぼ同じでなければならないのにもかかわらず,見かけ上1″を超える差異(約40m)ができてしまったのである.日本測地系の基準は子午環中心であるから,これは大子午儀の緯度が日本測地系に準拠しない独自の天文経緯度であったことを意味する.

世界測地系への移行はこの差を吸収できるチャンスであった.しかし,残念ながら,この大子午儀の経緯度を日本測地系の値とみなし,単純に世界測地系の経緯度に変換してしまったため,見かけ上の緯度差が保存されることになってしまったのである.

以上の経緯をふまえ,また,GPSなど宇宙測地技術の進展によって天文経緯度の基準点という概念はすでにその役割を終えており,すぐ近くに経緯度原点という申し分のない基準点があることから,平成23年(2011)版からは東京の経緯度として日本経緯度原点の値を採用することとした.幸い,両者の経緯度の違いはわずかであるため,四捨五入の関係で太陽の南中時刻などに若干の影響が出る点を除いて表値にほとんど違いは現れない.日食や月食の予報地点も同様の問題を抱えており,平成23 年(2011) 版からは「各地の日出入」で使われている値を採用することにした.

表2:本暦・暦象年表に見る東京の経緯度
東京の基準点 経度(時) 経度(角) 緯度 備考
明治19年以前 東京 東京を初度とする 明記なし 各地の時差を記載
明治20年(1887) 東京天守台 東京天守台を初度とする 明記なし 各地の時差を記載
明治21-23年 東京城内天守台  9h 19m 01s    35° 41′ 06″ 明治17年(1884)国際子午線会議
グリニジ基準の経度を記載
明治24年(1891) 東京天文台  9h 18m 58s    35° 39′ 15″ 明治21年(1888)東京天文台設立
明治29年(1896) 同上 同上    35° 39′ 16″ 明治25年(1892)の測量に基づき緯度を変更
大正09年(1920) 同上  9h 18m 58.727s  139° 44′ 40.9″ 同上 大正07年(1918)09月19日文部省告示號外
平成15年(2003) 同上    139° 44′ 29.27″  35° 39′ 27.7″ 世界測地系に移行
平成23年(2011) 日本経緯度原点    139° 44′ 28.8759″  35° 39′ 29.1572″ 予定

最後に,「各地の日出入」で使われている経緯度についてもまとめておこう.ここで使われている経緯度は大正10年(1921)の本暦に掲載された値が基になっている.明確な資料は残っていないが,おもに当時の道府県庁所在地の経緯度(日本測地系の値)を′単位で丸めたもののようである.

暦象年表への掲載は昭和25年(1950)版からで,地理的な距離も考慮してか北海道は根室・札幌・函館の3ヵ所が記載されている一方,まったく記載のない県も存在していた.昭和29年(1954)版からはほぼ全県に拡張され,昭和48年(1972)版から那覇・小笠原が追加,昭和52年(1977)版から八丈島と函館が削除されている.

その間に庁舎の移転や世界測地系への移行も経ているが,′単位の経緯度を変更する意味はあまりないので,現在もこの値を用いている.2

表3:「各地の日出入」で使われている経緯度
地名 経度 緯度 地名 経度 緯度 地名 経度 緯度 地名 経度 緯度
那覇 127° 40′   26° 13′ 長崎 129° 52′   32° 45′ 佐賀 130° 18′   33° 15′ 福岡 130° 24′   33° 35′
鹿児島 130° 33′   31° 36′ 熊本 130° 43′   32° 48′ 宮崎 131° 25′   31° 54′ 大分 131° 37′   33° 14′
松山 132° 46′   33° 50′ 高知 133° 32′   33° 33′ 高松 134° 03′   34° 21′ 徳島 134° 33′   34° 04′
山口 131° 28′   34° 11′ 広島 132° 27′   34° 23′ 松江 133° 03′   35° 28′ 岡山 133° 56′   34° 40′
鳥取 134° 14′   35° 30′ 和歌山 135° 10′   34° 14′ 神戸 135° 11′   34° 41′ 大阪 135° 29′   34° 41′
京都 135° 45′   35° 01′ 奈良 135° 50′   34° 41′ 大津 135° 52′   35° 00′ 福井 136° 13′   36° 04′
136° 31′   34° 44′ 金沢 136° 39′   36° 34′ 岐阜 136° 46′   35° 25′ 名古屋 136° 55′   35° 10′
富山 137° 13′   36° 41′ 長野 138° 11′   36° 39′ 静岡 138° 23′   34° 58′ 甲府 138° 34′   35° 40′
新潟 139° 02′   37° 55′ 前橋 139° 04′   36° 23′ 横浜 139° 39′   35° 27′ さいたま 139° 39′   35° 51′
宇都宮 139° 53′   36° 34′ 秋田 140° 07′   39° 43′ 千葉 140° 07′   35° 36′ 山形 140° 21′   38° 15′
福島 140° 28′   37° 45′ 水戸 140° 29′   36° 22′ 青森 140° 44′   40° 49′ 仙台 140° 52′   38° 16′
盛岡 141° 09′   39° 42′ 小笠原 142° 11′   27° 05′ 札幌 141° 21′   43° 04′ 根室 145° 35′   43° 20′

1) 本稿の議論に必要のない変遷や基準点については割愛する.「佐藤友三, 天文月報 第36巻, p.69他 (1943). 」(外部リンク先の天文月報1943年6,7,8,10月号のpdfファイル)や「相馬充, 理科年表Q&A, p.10 (2003)」などに詳しくまとめられているので参照されたい.

2) 平成15年版から平成19年版まで根室の緯度を43°19′としていたが,平成20年版からは再び元の43°20′に戻している.

暦象年表2010より


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