一般公開日の主テーマである「観測機器」にあわせて、江戸時代の観測機器について記述されている書物を取り上げた。
この写本の著者及び出版年代は不明であるが、江戸時代に使われていた測量機器の彩色図と解説が記されている。その中に初代天文方の渋川春海 (1639-1715) が用いた小渾天儀が描かれている。これは
この小渾天儀は貞享の改暦で観測に用いられ、その後、宝暦の改暦で京都の安倍家においても用いられた。
西洋天文学を採り入れて考案された寛政暦法の暦理について書かれた『寛政暦書』は35巻35冊にものぼる。出来上がるまでに年月がかかり、実際に上奏されたのは天保十五年(1844)であった。その中の巻十九〜二十一は観測機器の図が載せられており、望遠鏡の図も出てくる。この頃になると観測も常時行なわれるようになり、観測記録も残されている。
展示した機器は、東京天文台講師だった故前山仁郎氏が収集したもので、伊能忠敬の全国測量にも使われた機器と同型のものである。『杖突方位盤』には「大野作」と彫られていて興味深い機器である。
大野家は、幕府天文台御用を勤めた時計師の一家で、大野規貞、大野規周が知られている。時計師であったが、後に測量機器も作るようになり、伊能忠敬の測量機器も作ったといわれている。展示した機器も、この「大野」の可能性が高い。『杖突方位盤』は、測量をするときに方位を計るための必需品であったようだ。