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暦象年表の改訂について (2021)

2021年版暦象年表では,WGCCREの2015年報告を参考とした惑星の大きさ自転要素の改訂,ならびに冥王星の等級算出方法の改訂を行なった.このうち前者については,これまでも同様の改訂を行なっているが,すべてを採り入れているわけではなく,冊子版の暦象年表に掲載する項目では惑星の視半径太陽の自転軸などごく狭い範囲にしか影響しないうえ,影響するパラメータにはあまり改訂がなかったという事情から,必ずしもきちんと説明していなかったように思われる.しかし,Web版の暦象年表では惑星の自転軸など影響する要素も増えてきているので,今回はこの辺りをまとめて整理したいと思う.

WGCCREとは,IAU Working Group on Cartographic Coordinates and Rotational Elementsの略称で,直訳すれば地図座標と自転要素に関するIAU作業部会ということになる.具体的には太陽系の惑星・衛星・準惑星・小惑星・彗星などの形状や自転といった地図座標構築に必要なパラメータを標準化し,概ねIAU総会の行なわれる3年ごとに報告するといった活動を行っている.2011年発表の2009年報告以後しばらく改訂はなかったが,ようやく2018年になって2015年報告が発表された.

惑星の自転軸

まず,惑星の自転軸については,水星・火星・海王星の自転要素が改訂された.水星はメッセンジャー探査機や地上からのレーダー観測にもとづいて改訂されたものである.火星はオポチュニティ着陸機が2012年1月から5月にかけて静止していた期間に取得したデータを含めた改善がなされ,経度の基準もAiry-0クレーター中心からバイキング1号の着陸機を使ったより精密なものへと変わった.木星以遠のガス惑星の自転速度は今でもボイジャー探査機の電波観測(体系III)がもとになっており,木星・土星についてはより新しい成果もあるものの,なかなか議論の収束しない状況が続いている1.しかし,海王星の自転速度については今回,長期間極めて安定に存在する大気中の模様を光学観測した値(体系II)に改訂された.Web版の「惑星の自転軸」では,過去にさかのぼって2015年報告書をベースにした値を出力する一方,木星の体系I・体系II,海王星の体系IIIといった異なる体系も選択できるようにしている.

天体の形状

天体の形状についても,太陽・水星などの大きさが改訂された.ただし,太陽半径の695,700 kmという値は日震学にもとづくもので,物理的な天体の大きさという意味ならともかく,外側へ広がる光の影響など光学的な大きさとしては必ずしも適切な値ではない.そこで,暦象年表では696,000 kmや日食等の関連定数には変更を加えないこととした.水星の半径はメッセンジャー探査機の成果で三軸不等の値も掲載されているが,球形に近いので暦象年表では推奨値である平均半径 2439.4 kmを採用している.

暦象年表採用値

表1:暦象年表(Web版を含む)で採用している値
惑星対恒星
自転周期
備考平均半径備考
赤道半径極半径
太陽 25.3800日カリントン周期696000 km2009年報告書
水星 58.6461日2439.4 km平均半径
金星243.0185日6051.8 km
地球 0.9973日6378.137 km6356.752 kmGRS-80
火星 1.0260日3396.19 km3376.20 km極半径は平均値
木星 0.4135日体系III71492 km66854 km
土星 0.4440日体系III60268 km54364 km
天王星0.7183日体系III25559 km24973 km
海王星0.6653日体系II24764 km24341 km
---DE4301737.4 km

備考

1) たとえば,木星については2000年報告書で一旦改訂されたが,2009年報告書で再び元に戻っている. → 本文(1)に戻る

暦象年表2021より