日の入り後 (日の出前),しばらくは暗くならない.上空の大気が太陽光を散乱して光っているためでこれを薄明という.他に日暮れ,黄昏,夜明け,
太陽の
夕焼け,山や木のシルエット,黄昏時の風情や一番星探しの時の空など,これらは薄明の時の様子だが,現在は都会やリゾート地では照明が強くなって,楽しむ機会が少なくなってきている.
薄明の継続時間はどのくらいだろうか.太陽の視赤緯が大きくなれば長くなり,また緯度が高くなれば,見かけの太陽の動きが水平に近くなるので継続時間は長くなる.日本のような中緯度地方では日の入り(日の出)から常用薄明は約30分,天文薄明は約1時間半見当続くと考えてよい.東京と北海道,または沖縄,春秋と夏冬で約1割程度の違いがある.高緯度になればなるほど継続時間の違いが著しくなる.
夏至の頃,緯度が61°以上では伏角が6° (常用薄明) 以上大きくならず,その前後合わせて約1か月,真夜中でも真っ暗にはならない日が続く.緯度が66.5°以上では夏至をはさんで太陽が沈まない日が,逆に冬至をはさんで太陽が出ない日がある.
今,北半球で薄明が起きない条件を,伏角 t,緯度 φ,太陽の視赤緯 δ を用いて表すと
となる.例えば,緯度60°の場所で天文薄明 (t = 18°) が起こらないのは太陽の視赤緯が12°以上となる季節である.
夜明けは古くは1日の始まりと考えられた.江戸時代,薄明の始まり(夜明け−明六つ),終わり(日暮れ−暮六つ)を昼と夜の境としていたが,一般に使われていた不定時法では季節によって昼と夜の長さが変わった.寛政暦 (寛政10年(1798)施行) では,京都における春秋分の日の出前(日の入後)の二刻半 (一日を100刻に分けた時刻法) −現在の36分− を薄明の始まり(または終わり)とした.その時の太陽の伏角は7°21′40″になる.年表掲載の東京の夜明,日暮は,この寛政暦での定義を用いている.
暦象年表1992より加筆、訂正