2009年7月22日の皆既日食につづいて,2012年5月21日には金環日食を日本で見ることができる.それも,九州地方南部,四国地方南部,近畿地方南部,中部地方南部,関東地方など広範囲にわたって金環食を見られるので,自宅にいながらにして眺められるという人も多いに違いない.
もし部分食しか見えない地域でもがっかりすることはない.金環食は,月が遠くにあるために太陽全体を覆い隠すことができず,太陽がリング状に残って見える現象であり,皆既食と違って周囲が暗闇になることはないからだ.それでも,多くの地域で最大食分は0.9以上であり,気温や明るさの変化に気づくこともあるだろう.動物がそわそわと騒ぎ出す様子も見られるかもしれない.
しかし,それでも太陽光は十分に強烈なので,日食グラスや投影板,ピンホール現象などを利用して安全に観察していただきたい.また,太陽高度が低いのでいろいろな地上物と一緒に写真をとろうとする人も多いと思われる.デジタルカメラのCCDを破損しないよう,撮影中に太陽光を直接見ないよう注意しながら,テクニックを駆使して挑戦することになるだろう.
国内で金環食が見られるのは1987年9月23日の沖縄以来25年ぶりのことで,さらに1つ前は1958年4月19日(奄美大島や八丈島など)で,今回の日食から3サロス前にあたる.次回はちょうど1サロス後の2030年6月1日(北海道)まで待たねばならない.
6月6日には金星の日面経過が全国で見られる.金星の日面経過とは,太陽−金星−地球がほぼ1直線状となり,金星が黒い点となって太陽の前を横切っていく現象を指し,太陽面通過と呼ぶこともある.少しばかりリングが太いが,金星版の金環日食といってもよく,太陽光を直接見ることのないよう,安全に観察していただきたい.
2006年11月9日には水星の日面経過も見られたが,金星の場合はみかけの大きさが太陽の32分の1程度と大きく,見ごたえが違う.また,今回は日の出や日の入りにかからず,最初から最後まで経過の全過程を眺められる.
さらに,この現象はめったにお目にかかれない.朔(新月)のたびに日食が起こらないのと同様に,金星の軌道面が地球の軌道面に対して約3度傾いているため,その交点付近で地球と金星の両方がそろう必要があるからだ.この条件を満たすのは大変まれなことで,8年,121.5年,8年,105.5年という周期でくりかえすのみである.
前回は8年前の2004年6月8日だったが,次回は105.5年後の2117年12月11日までない.日食と違い国内に限った話ではないので,よほど長生きをしない限りは今回がラストチャンスとなるわけで,絶対に見逃せない.
年月日 (1) | 年月日 (2) | 備考 |
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1874年12月09日 | 1882年12月6-7日 | 昇交点付近 |
2004年06月08日 | 2012年06月 06日 | 降交点付近 |
2117年12月11日 | 2125年12月8-9日 | 昇交点付近 |
なお,1874年すなわち明治7年12月9日の日面経過ではアメリカ,フランス,メキシコから観測隊が送り込まれ,明治維新から間もない日本に近代的な天文観測技術,測量技術がもたらされたことも,日本の科学史上忘れてはならない出来事である. 1
このほかに,8月14日の未明には石垣島などを除くほぼ全国で金星食あるいは月による金星の掩蔽 (えんぺい) と呼ばれる現象が見られる.これは月が金星の前を横切って金星を隠してしまう現象であり,今回は月の明るい側から金星がもぐりこみ,暗い側から出てくる.日面経過では太陽の前だった金星も,今度は月が相手なので後ろ側にまわることになる.観測地によってはあたかもトルコ国旗のような状態になったり,月の端を金星がかすめたりする.
一般に惑星食は日食と同様に見られる範囲が狭く,また,現象が起きるのが夜間とは限らないこともあり,好条件で見られることはそれほど多くない.しかるに今回は,等級-4.3と太陽や月を除けばもっとも明るく輝く天体である金星が,西方最大離角 (8月15日) 付近と太陽から離れた位置にあり,日本の多くの地域で最初から最後まで全過程を見られるという絶好のチャンスである.加えて,ペルセウス座流星群の極大も近いので,一晩で両方のイベントを楽しめるかもしれない.金環日食や日面経過と違い,とくに道具がなくても安全に観察できるのも魅力である.
このように2012年は楽しみな天文現象が目白押しである.これらの現象の詳しい状況や予報については,暦象年表・暦要項のほか,暦計算室ホームページでも調べることができる.ぜひご活用いただきたい.
最後になったが,来る2012年には,金環日食,金星日面経過,金星食,願わくはオリンピックの金メダルが,大震災で大きな被害にあった日本に,癒しと活気を与えてくれることを願う.
1) 斉藤国治, 明治七年の金星日面経過について, 東京天文台報 第16巻.→本文に戻る
暦象年表2012より