暦Wiki
潮汐摩擦 (Tidal friction)†
月は遠ざかり、地球の自転は遅くなる†
- 月の潮汐力により地球は伸ばされますが、
- 月にあわせて瞬時に反応することはできず、変形には時間がかかります。
- その間にも地球は自転しますので、地球が伸ばされる方向は月よりも先を向いていることになります。
- 変形にはさまざまな摩擦=潮汐摩擦を伴い、その結果エネルギーが失われます。
- 月は十分遠いので、固体地球・海洋・大気に細分化する必要はありません。トータルとして、変形方向は月の数度前方となります。
- 摩擦によるエネルギー散逸は、おもに海洋潮汐に由来します。
- このような状況下で月の引力がどのように作用するかを考えると、以下の図のようになります。
- Aさん・Bさんそれぞれに働く力(黒)から、地球の中心に働く力(青)を引いたもの(赤)は、いずれも地球の自転とは逆向きであることがわかります。
- このため、長期的には地球の自転は遅くなっていくのです。
- 自転が遅くなると1日の長さは長くなります。その変化は、だいたい100年で2ミリ秒くらいの速さです。
- 逆に、過去に遡れば1日の長さは短くなり、数億年前は1年=400日であったといわれています。
- 逆に、その反作用で月は黄経方向に加速されます。
- 加速されると、より遠くで公転するようになります。つまり、月は地球から遠ざかっているのです。
- 月レーザー測距の成果によれば、その割合は1年に3.8cmほどです。
- 潮汐摩擦の発見に至る、いわゆる黄経の永年加速(長年加速)問題にまつわる紆余曲折は、青木信仰著「時と暦」*1第4章などをご覧ください。
月はいつも地球に同じ面を向けている†
- 潮汐変形にはエネルギーを要しますので、力を及ぼす天体の方向に伸びたままのほうがエネルギー的に有利です。
- そのためには、その天体の自転速度と力を及ぼす天体の公転速度が同じになればOKです。
- この状態では、伸びる方向が固定=力を及ぼす天体に対していつも同じ面を向けることになります。
- 月はまさにそのような状態にあり、地球に対していつも同じ面を向けています。
- 力を及ぼす天体の公転というのは、相対的に見ればその天体の公転と同じですから、公転と自転の周期 (速さ) が等しい状態といっても構いません。
- このような現象は、月だけでなく普遍的に見られるものです。
- 太陽系内でも多くの衛星がそのような状態にあります。
- 現在では太陽系の外にもたくさんの惑星が見つかっていますが、主星の近くにある惑星はそのような状態にあると考えられます。
遠ざかるばかりが潮汐ではない†
- 静止軌道とは公転速度が中心星の自転速度と一致する軌道です。
- 地球の静止軌道にある衛星から見れば、地球はいつも衛星に同じ面を向けていることになります。
- 地球から見ればいつも同じ方向に衛星が位置するように見えます。このため、気象衛星や放送衛星などに利用されています。
- 静止軌道より内側の衛星は中心星の自転よりも速く公転しますから、引き伸ばされる方向は衛星よりも後方になります。
- 中心星の自転と逆方向に公転する逆行衛星は、運動と逆方向に加速 (つまり減速) されることになりますので、やはりいずれは落下するでしょう。
潮汐は生命を生む?†
- 自転と公転が同期していても、軌道が楕円の場合は近いときと遠いときで潮汐変形の度合いが変化し、摩擦で衛星の内部に熱が発生します。これを潮汐加熱(Tidal heating)といいます。
- 熱の発生はエネルギー的に不利ですので、軌道は円に近づくのが普通です。
- しかし、ガリレオ衛星のように多数の衛星がひしめき合っていると、相互に影響を及ぼして(共鳴)、軌道を楕円を保つ効果があります。
- ガリレオ衛星の1つであるイオ (Io) はその典型例で、潮汐加熱による熱で今でも活発な火山活動が続いています。
- 土星の衛星エンケラドゥス (Enceladus) は、潮汐加熱などによる熱で地下に海が存在していると考えられています。
- エンケラドゥスの公転周期は1.37日、同じく土星の衛星ディオーネの公転周期は2.74日と2:1の共鳴関係にあり、楕円軌道が保たれています。
- 土星に近づくと割れ目が閉じ、遠ざかると割れ目が開いて、間欠泉のように地下から水が噴出します。
- 太陽から遠い極寒の世界であっても、このエネルギーがあれば生命が存在できるかもしれません。
- エンケラドスの地下海に熱水環境 (アストロアーツ )
関連ページ†
Last-modified: 2022-07-26 (火) 20:44:32