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星食 (Lunar occultation)†
- 月はもっとも地球に近い天体であり、地球の周りを公転する間にさまざまな天体の前を通り過ぎます。このように月が天体を隠してしまう現象を星食 (せいしょく) あるいは月による掩蔽 (えんぺい) と呼びます。
- 天体が月の後ろに入りこむ現象を潜入 (せんにゅう)、ふたたび出てくる現象を出現 (しゅつげん) といいます。
- 現象の見易さは、その時間が昼か夜か、天体の明るさ、月の満ち欠け、現象が起こるのが月の明るい側=明縁か暗い側=暗縁かなどにより、大きく異なります。
- とくに、月が惑星を隠してしまう現象は惑星食、月が太陽を隠してしまう現象は日食と呼ばれます。
- 古記録には「星入月」「月掩星」などと表記されています。古くは日本書紀にも記録があります (日本書紀巻23 舒明天皇十二年二月 国立国会図書館 )。
- 「月犯星」は星食ではありませんが、月のすぐ側を通り過ぎる場合に使われます。
- 古来、月の位置は二十八宿など星の位置で記録していました。明るい天体の星食なら、道具がなくても月の位置がわかります。
- 月行遅疾のような単純化をした暦では星食は予測不能であり、天変とされていました。
- 西洋天文学を導入した寛政暦により、ようやく観測と暦が比較できるレベルに達しました。
- 近代でも経度を正確に測るには月の位置を正確に予報する必要があり、月と星の位置関係は極めて重要でした。
接食 (Grazing lunar occultation)†
- 天体が月の縁をかすめるような場合をとくに接食 (せっしょく) といいます。
- 接食では月縁にある山や谷のために星が潜入と出現を繰り返し、明滅するように見えます。
- 日食や惑星食のように、星食の見られる範囲は限られており、その南北限界線が接食の見られる地域です。
星食観測†
- 潜入・出現時の恒星位置から月縁の位置がわかります。
- 月の距離やひょう動・月縁形状などの情報をもとに、月中心の位置を知ることができます。
- 月縁の子午線通過では通常明縁の位置しかわかりませんが、星食では明縁・暗縁両方の位置を知ることができ、東西両方から位置を制限できます。
- 複数地点での観測により、月縁の形状についての情報も得られます。
- 月は恒星に比べてはるかに近いので、ほかの場所で観測すると、恒星の位置は同じでも月の位置は違って見えます=地心視差。このため、観測地点ごとに恒星は月の異なる部分に隠されます。
- 別の言い方をすれば、恒星を光源とみなした時にできる月の影に覆われた範囲で星食は観測されます。この影が月縁の形を反映しています。
- 月については月周回衛星「かぐや(SELENE)」による観測で詳細なデータが得られていますが、たとえば小惑星による恒星の掩蔽を観測すると小惑星の形状を知ることができます。
- 接食観測は、月の南北方向の位置決定や南北の月縁形状把握に役立ちます。
- 観測結果と月の暦との比較により、天体暦の時刻変数 (暦表時・力学時) と観測に用いる時刻=世界時のずれであるΔTに関する情報も得られます。
- ただし、現在では月位置は月レーザー測距(LLR)などにより、月縁形状は月周回衛星「かぐや(SELENE)」により、時刻は原子時計やVLBIにより十分精密に求まるため、あまりこうした目的では実施されなくなっています。
関連ページ†
Last-modified: 2022-11-30 (水) 17:31:25