暦Wiki
歳差 (Precession)†
- 地球の自転軸は常に同じ方向を向いているわけではありません。長い年月をかけて少しずつ変化していきます。
- 現在は自転軸を延長した方向=天の北極の近くに北極星がありますので、北極星はほとんど動かないように見えます。しかし、半径40′程度とわずかですが、北極星も天の北極の周りを回っています。
- 渋川春海のころは天の北極と北極星はおよそ2.5度離れていました。
- それでもぱっと見では動かないように見えますが、春海は幼少時にして北極星が動くことを示して見せたという逸話が残っています。
- 天文瓊統でも北極=北辰=天極と、北極星=極星とは区別して書いています。
- さらに今から5000年ほど前には、自転軸はりゅう座のα星トゥバンの方向を向いていました。
- この変動を歳差と呼びます。
- もっとも顕著なのは、自転軸が公転面=黄道面に対する傾きを保ったまま、約26000年の周期で自転とは逆向きに回転する成分です。自転軸に付随して赤道が動いていきますので、これを赤道の歳差と呼びます。
- 基準となる公転面=黄道面も惑星からの引力により変化を受けます。これを黄道の歳差と呼びます。赤道の歳差に比べて影響は小さいですが、自転軸の傾き=黄道傾斜角が変化するのが特徴です。
- 赤道の歳差と黄道の歳差をあわせて一般歳差と呼びます。
- 季節は自転軸の向きと太陽の位置関係によって変化するものです。
- 歳差の発見
- 西洋では、紀元前2世紀ごろ、ヒッパルコスにより発見されたといわれています。
- 中国では、4世紀ごろ東晋の虞喜によって発見されたといわれています。
- 歳差は南朝宋の祖沖之による大明暦ではじめて導入され、途中儀鳳暦などでは除かれることもありましたが、大衍暦以降は必ず考慮されています。
赤道の歳差 (Precession of the equator)†
- 地球は1日1回自転しながら、1年で1回太陽の周りを公転しています。
- これに対し、太陽や月は公転面付近から引力を及ぼします。
- 地球の重心とそれ以外の点では、働く引力の大きさや向きが異なります。
- 地球の重心に対して働く力は公転運動に使われますから、これを除くと地球を引き伸ばす成分が残ります。この成分を潮汐力といい、これにより潮汐=潮の満ち干が起こります。
- さらにこの潮汐力が偶力となって、自転軸を起こそうとする方向にトルクが働きます。
- 自転による角運動量ベクトルは自転軸の北極方向を向いており、トルクによる角運動量ベクトルは画面手前の方向を向いています。
- もちろん、前者の方が支配的です。後者によって地球がぐるぐる回転することはありません。
- したがって、両者を合成すると、自転角運動量ベクトルの方向=自転軸が、画面手前方向に少しずつずれていく=自転とは反対方向に回転することになります。
- このようにして、自転軸は約26000年の周期で自転とは逆向きに回転します。これが赤道の歳差です。
- トルクによる角運動量は自転による角運動量に対して垂直です。したがって、赤道の歳差では公転面に対する自転軸の傾きは保たれます。
- この現象はこまが首を振りながら回転する現象によく似ています。こまの場合は重力によりこまを倒す方向に力が働きますが、赤道の歳差では力は自転軸を起こす向きに働くという違いがあります。
- 太陽や月は時々刻々と位置を変えますので、一方的に回転していく成分のほかに周期的な成分も含まれます。これが章動になります。
- この現象は以前は日月歳差(Luni-solar precession)と呼ばれていたものです。しかし、太陽や月だけではなく、惑星からの影響も無視はできませんから、赤道の歳差という名称に変更されました。
黄道の歳差 (Precession of the ecliptic)†
- 太陽系の惑星はほぼ同じ面を公転していますが、厳密には少しずつ違いがあります。
- このため惑星からの引力により、地球の公転面=黄道面は徐々に変化していきます。これを黄道の歳差と呼びます。
- 黄道の変動に伴い、黄道傾斜角が変化します。
- 黄道の歳差も以前は惑星歳差(Planetary precession)と呼ばれていましたが、赤道の歳差にあわせて名称変更されました。
- 黄道傾斜角の変動幅はたかだか±1°強に過ぎません。
- J.Laskarら*1によれば、このように安定なのは月があるからで、月がないと0°〜85°まで極端な変化を起こします。
- この角度は季節変化の度合いに影響を与えますから、今日のような季節変化を味わえるのは月のおかげともいえます。
関連ページ†
Laskar, J., Robutel, P., Nature, 361, 608-612, (1993).->
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Last-modified: 2020-05-27 (水) 17:33:43